「僕は信じている。アートは万人とのコミュニケションだ。金持ちの売り買いや解釈なんてどうでもいい。」「アートをすべての人に」。1988年にエイズと診断され、1990年2月、31歳の若さでその合併症により他界したアメリカのアーティストのキース・ヘリングさん。死期の7か月程前の1989年8月に自身の生涯を回顧して語ったこれまで未公開だったという貴重なインタビュー肉声を中心に、彼と触れ合った人々の証言と当時の記録映像で語られる濃密な53分間のドキュメンタリー映画「キース・ヘリング〜ストリート・アート・ボーイ〜」。感想です。
痺れました。よくぞ、映画という記録に残してくださいました。
私、本作を鑑賞するまで、キース・ヘリングさんの存在を全く知りませんでした。
映画の予告編を観て思いました。
「ん?この絵、どこかで見たことがあるような。このようなデザインをモチーフにしたものを雑貨屋さんとかで見かけたことがあるな。」
「そういえば、この絵を描いた人のことは知らないなあ。」
この鑑賞前の感覚は、先日観たドキュメンタリー映画「フィールズ・グッド・マン」の鑑賞前の感覚と同じです。
ドキュメンタリー映画「キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ」鑑賞しました。
はじめから最後まで、魅入りました。
1958年5月、ペンシルベニア州ダッチカントリーのカッズタウンで生まれる。
父アレンさんが「保守的で退屈な町」と語るその町で育つ。
小学校3年生の時に書かれたと母ジョアンさんが記憶する「When I Grow Up」の文。
大切に実家に保管されているその文章を父アレンさんが朗読します。
彼は、子供のころ、大きくなったら何になりたかったのか。その短くも明確な将来のイメージに驚きました。
また、子供の時からの友達のカーミット・オズワルドさんが語る少年から青年にかけての彼との思い出話の数々にも、驚きました。そんな子供いるのかと。いたんです。田舎で暮らしながら(田舎で退屈だったからこそなのか)その思考、その活動はすごいなと。
そして、20歳の時に、ニューヨークへ行き、スクール・オブ・ビジュアル・アーツに進学します。
そこからのニューヨークでの10年が怒涛です。
キース・ヘリングさんご自身の肉声と、当時を知る人々の証言の数々。
映画で、当時を知る人としてお話しし始めると、名前のテロップが出るのですが、名前のみの表示で、何をしているどんな人かが表示されない人も少なからずいました。ドキュメンタリー映画の進行としては、お話の内容だけで十分貴重で、何の影響もないのですが、お話の内容が貴重なだけに、観ていて「そもそも、この人は、誰なんだろう?」となりまして、鑑賞後に主なひとりひとりを調べました。
故 John Gruen
美術評論家、美術史家、書籍「キース・ヘリング」(1992)著者、キース・ヘリングさんのインタビュアー
Allen Haring
父 漫画家
Joan Haring
母
Kristen Haring
妹 キース・ヘリング財団 創設ディレクター、科学技術の歴史家
Kermit Oswald
小学生の時からの親友
Kenny Scharf
アーティスト、スクール・オブ・ビジュアル・アーツで共に学んだ
Samantha Mcewan
スクール・オブ・ビジュアル・アーツで共に学んだ
Bruno Schmidt
スクール・オブ・ビジュアル・アーツで共に学んだ先輩
Ann Magnuson
クラブ57マネージャー、DJ、パフォーマンスアーティスト、ナイトクラブパフォーマー、女優
Drew B. Straub
クラブ57司会者、マルチメディアプレゼンター、大学で一緒に美術を学んだ
Fab 5 Freddy
グラフィティアーティスト
Lee Quinones
グラフィティアーティスト、地下鉄や街の壁画のグラフィティ
Tony Shafrazi
アートディーラー、ギャラリーオーナー、アーティスト、1976年にピカソ絵画「ゲルニカ」にスプレー塗装の過去
Bill T. Jones
振付師、芸術監督
Julia Gruen
キース・ハリング財団エグゼクティブディレクター、受諾者、故 John Gruenの娘
証言でお話しされている主なひとりひとりの人となりを頭に入れて、もう一度、鑑賞しました。
より、見入りました。
本作は、ストリーミング配信で鑑賞できるので、5回鑑賞しました。
1970年代から1980年代のニューヨーク、そして、キース・ヘリングさんが創作で飛び回った当時の世界の国々の様子も記録映像でわかりやすくその背景を映しながら、キース・ハリングさんの赤裸々な人生と、「アートをすべての人に」の思いで活動していた貴重な記録と証言、なにより、肉声で聞けて、よかったです。
ドキュメンタリー映画「キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ」。
2021年4月30により、ストリーミング配信で公開中 です。
地下鉄の落書きから世界へ。アート界で旋風を巻き起こし、数々の作品を世に残したキースヘリング。 同性愛、ドラッグ、エイズ…31歳の若さでこの世を去ったキースの波乱万丈の人生を、本人のインタビューを中心に描くドキュメンタリー。イギリスのBBC社製作の作品です。
予告編:ドキュメンタリー映画「キース・ヘリング〜ストリート・アート・ボーイ〜」
ドキュメンタリー映画「キース・ヘリング〜ストリート・アート・ボーイ〜」
【監督】ベン・アンソニー 2020年/イギリス/53分/英題:Keith Haring: Street Art Boy
アート界で国際的なセンセーションを巻き起こしたキース・ヘリングは、1980年代のニューヨークにおける伝説的なアートシーンの先駆者であり、ポップカルチャーとファインアートの世界に革命をもたらした。未公開のインタビューで構成されたこの興味深く真実に迫るドキュメンタリーは、まさにキース自身が語るアーティスト伝記映画の決定版だ。また、キース・へリング財団のみが保有する初公開の記録も含み、過去50年間で最も人々の目を惹きつけた彼の作品の背景にあるワイルドでクリエイティブなエネルギーも映し出している。
1989年、キースはエイズの診断を受けた後、作家で美術評論家のジョン・グルーエンに伝記の執筆を依頼。その年の夏、5日間かけてグルーエンが行った詳細な取材で、キースは包み隠さず自身の人生について語っている。このインタビューを中心に、キースが若かりし頃を過ごした退屈なペンシルべニア時代から、神話と語り継がれるニューヨークのゲイクラブ時代まで、エイズ・クライシス最中の切実な状況に触れながら、同時代を共に過ごした友人、家族、製作に関わったコラボレーターたちとの出会いと交流、そして最期の時まで生命を賛美して早世したアーティストへの思いが描かれる。
引用元:MadeGood films
アメリカを代表するアーティスト、キース・ヘリング。その短い生涯を、実の妹の目で描く、世界でただ1冊の伝記絵本。
ドキュメンタリー映画としての構成、編集、映像も素晴らしい。要所で、ニューヨークの地下鉄の壁面映像でストーリーテリングする演出シーンの数々はかっこいい。終盤、死期間近のキース・ヘリングさんが最後に描いたという1枚の絵は、痺れました。
キース・ヘリングさんが創作中のアパートに音量全開で流れていたという DEVO の「Penetration In The Centrefold」、The B-52s の「Rock Lobster」をはじめ、BGMに流れる音楽の数々が、1970年代から1980年代のニューヨークな感じなのでしょうか、とてもよかったので、この曲かなぁという推察で、29曲、YouTubeで再生リストを作ってみました。なんとなくの推察です。すごくいいです。