【感想】現実に見入りました。映画『ミッドナイト・ファミリー』鑑賞。メキシコの民間救急救命事業に迫るドキュメンタリー映画。 #ミッドナイトファミリー

ドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』

こんな現実が、今もあるのだなぁ。

救急救命を生業にするオチョア家族の無認可救急隊闇ビジネスと生活のドキュメンタリー。

人口900万人のメキシコシティでの救急救命について、行政、警察、救急車、救急隊、病院事情を、現場の緊迫映像によって垣間見ることができました。

また、そんな緊迫映像の合間合間にオチョア家族の日常生活も描かれます。

ドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』(2019 / 日本公開2021 / 81分)。

感想です。

心に残ったところ – 映画『ミッドナイト・ファミリー』

インタビュー・音楽・ナレーション無し

これにより緊迫感をもって見入ることができました。
生活と現場での会話の音声と音での映像のみです。
メキシコシティで、民間救急救命事業を営むオチョア家族の生活と、救急救命現場の様子が映し出されていきます。
ドキュメンタリー映画でよくある関係者へのインタビュー映像やナレーションはありません。
説明的なものは、冒頭の無音でのテロップのみ。
「メキシコ・シティの人口900万人に対して公営の救急車は45台未満しかない」
「ほとんどの救急医療を無許可の市営救急隊が請け負っている」
「オチョア家族も闇営業の救急隊として毎年何百人もの患者の搬送にあたる」
音楽は、エンディングとエンドロールのみ。
このドキュメンタリー映画の制作方法、本作ではよかったです。

人口約900万人に対し行政運用の救急車が45台未満のメキシコシティ

事故や事件、急病があったとして、現場で何十分、何時間待っても行政運用の救急隊が駆け付けられない。
そんな状況が今、メキシコシティでは現実なのだと驚く。

市行政の代わりに必要な救急医療サービスを提供

そんな状況に目をつけて隙間産業的に生まれたのが、民間の救急隊ビジネス。
「ひとりでも多くの命を救いたい」「これは稼げる」としてはじまり、同業者も増えて競争が激化している。
なるほどなあと。

営利目的での無許可の救急救命闇ビジネス

これは行政から正規に認可を受けているものではない闇ビジネス。
当初は「ひとりでも多くの命を救いたい」「これは稼げる」として、健全な志をもってはじめた事業者もおおいのであろうが、同業者も増えて競争が激化していく中で、治療の初期処置料金や病院への搬送料金の支払い能力がないとみれば危篤の場合でも搬送を拒否したり、支払いを強引に強要したりと、まずは「お金を払える患者か」でサービスを提供するか否かの判断を最優先にする事業者も蔓延している状況。
営利目的のビジネスですから、まずは、支払い能力の有無で判断することは、事業者としてのありかたとして理解できる。
ただこれは、人の命にかかわること。
とても、とても、悩ましい状況です。

賄賂を要求するメキシコシティの警察

警察が、救急隊闇ビジネス事業者に賄賂を要求する。
これがどのような仕組みかも描かれます。
同業者の競争が激化している状況の中で、患者を獲得するために、どの救急隊よりも、事故現場、事件現場へ一番に到着する方法。
それは、事故発生、事件発生情報を、警察関係のネットワークからいち早く得ること。
警察からの情報を聞きつけた瞬間に、事故現場、事件現場へ救急車を走らせ、一番の到着を目指します。
賄賂を警察に支払い、警察からの情報により、救急隊が患者を獲得し、患者から搬送料金を受け取る。
賄賂の金額は、1件につき300ペソ(17米ドル)。
患者からは、病院への搬送料金として、3,800ペソ(185米ドル)を請求。
オチョア家族は、中古の救急車を購入し、1990年代末から無許可の救急救命ビジネスをはじめ、20年間にわたりこの方法で収入を得て生活してきたとのこと。

オチョアお父さんがお人よし

このお人よしが、家計を苦しめます。
多くの同業者が、患者の支払い能力を再優先に判断して、患者を選びます。
しかし、オチョアお父さんは、患者の病院への搬送を終え、患者に料金の請求をした際、患者が医療保険に加入していなかったり、生活に困窮している状況や、搬送へのクレームを聞くと、料金を割り引いたり、はては、無料で請け負ってしまい、収入を得られない日が続くような状況もあります。
これには理由があって、もしも強引に請求をしたとして、このことを患者が行政に訴えると、無認可の闇救急救命ビジネスをしていることがあからさまになり、この闇ビジネスができなくなる。はては、家族の収入の糧を失うことになってします。
困っている人へのこのかかわり方は人情的には、讃えられそうなものですが、子供たちにとっては、収入がない日が続くことは、生きるための死活問題。
患者から料金を得られなかったとしても、警察への賄賂、ガソリン代、救急車のメンテナンス、救急医療機器や資材の補充等の支払いは変わりません。これにより今日食べるものを購入できなかったり、家ではガスを止められたりと、オチョア家族の家計も苦しめます。
これも、とても、とても悩ましいです。

自称「若くてハンサム」仕事はやり手の17歳の兄ホアン

尊敬しながらも腰抜けな人生の負け組として父をみる17歳の息子ホアン。
幼いころから父の仕事ぶりをみてきたのでしょう、仕事はバリバリのやり手です。
今では、父よりもしっかりと仕事をしていこうとしています。
弟思いでもあり、時に優しく、時に厳しく年の離れた弟の将来を気にかけています。
いい仕事ぶり、いいお兄さんです。
若いなあと感じるところも多々ありますが、お見事です。

学校に行くより家族と一緒に救急車に乗って過ごしたい9歳の弟ホセ

お父さんとお兄さんの日常生活と仕事とを間近で観ていて、尊敬しているんだろうなあ。
学校に行くよりも、家族と一緒に救急車に乗って毎日を過ごしたい9歳のホセ。
できることのお手伝いはしながら、救急救命の仕事ぶりをのぞいています。
兄から、学校にちゃんと行って勉強しておけと諭されたりします。
「できる奴はノートを持ち歩くんだよ」「学校に行かないとバカになるぞ」
兄にそう言われても、まだまだその意味が分からない様子で、一所懸命に口ごたえする様子がかわいいです。

なわとび、へたくそ

本作では、救急救命のシーンのみならず、家族での生活のひと時の数々の様子も描かれます。
その中で、兄弟で縄跳びで飛べる数を競う遊びのシーンがあるのですが、これが、二人とも縄跳びがへたくそ。
とても、微笑ましかったです。

どの同業者よりも早く現場へ~闇救急車同士の緊迫のカーチェイス

事件現場へ救急車を飛ばして、いち早く到着して患者を獲得しようと、同業者とカーチェイスを繰り広げるシーンがあります。
この緊迫感、見入ります。

ジェシカってだれ?

17歳のホアンの電話相手ジェシカ。
仕事はバリバリのやり手なのですが、そうはいっても17歳の青年です。
仕事の合間に電話で武勇伝かのごとくおもしろおかしく救急救命での患者の様子なんかをお話ししちゃう様子が幾度とでてきます。
その電話の相手が、いつも、何歳か年上らしいジェシカ。
ジェシカって誰?とか思いましたが、友達か彼女かなのかな。

収音、整音、撮影、映像、編集、お見事

監督・プロデューサー・撮影・編集をすべて行ったルーク・ローレンツェンさん、お見事です。
家庭生活での会話や生活音、救急救命での救急車内や事故現場での会話や街の雑踏の音のみが切り取られた映像のみで編集構成されている作品。
インタビュー映像やナレーションは一切無し。
そのような映像・音声素材なのですが、撮影時の収音、撮影がしっかりなされています。
そして、作品としての81分間の映像そのもの、映像のつなぎ、整音がお見事。
このような現場の会話映像素材の数々をつなぎ合わせて制作されるドキュメンタリー映画ですと、場面によって、映像のテイストや、会話の声や音がシーンによってバラバラになったり、生活音や街の雑踏音が耳障りだったりして、観ていてエネルギーを要したりするものですが、そんな苦痛は全く感じません。
お見事な映像制作技術です。
81分、集中して見入ることができました。

この現実、知ることができてよかった

ドキュメンタリー映画「ミッドナイト・ファミリー」。
知らなかったことを垣間見られました。
観てよかったです。
試写のオファーをくださった配給元の MadeGood. films 社 さんに感謝です。
ありがとうございます。

場面写真 – 映画『ミッドナイト・ファミリー』

配給元の MadeGood. films 社さんからご提供いただいた場面写真です。
メキシコシティでのオチョア家族と救急救命事情の現実の余韻に浸ります。

作品紹介 – 映画『ミッドナイト・ファミリー』

内容

メキシコシティの人口密集地域で私営救急隊を営むオチョア家族。同業の営利救急救命士らと競い合って急患の搬送にあたっている。この熾烈なビジネスで生計を立てるため、オチョア家族は救急医療を求める患者から何とか日銭を稼ごうと奮闘する。

映画『ミッドナイト・ファミリー』公式サイト

あらすじ

メキシコシティには、人口900万人に対して公共の救急車が45台未満しかない。そのため、救急救命にあたる闇救急車の需要がある。オチョア家族も同業の救急救命士らと競い合って急患の搬送にあたる私営救急隊だ。この熾烈なビジネスで生計を立てるため、オチョア家族は救助を求める患者から何とか日銭を稼ごうと奮闘する。しかし、闇営業を取り締る名目で汚職警官に賄賂を要求されるようになり、さらに家族は金銭的にも追い詰められていく。倫理的に疑問視されるオチョア家族の稼業をヒューマニズムにあふれる視点で捉えつつ、医療事情、行政機能の停滞、自己責任の複雑さといった差し迫った課題を描いたドキュメンタリー映画。

映画『ミッドナイト・ファミリー』公式サイト

主な受賞歴

サンダンス映画祭 米国ドキュメンタリー特別審査員賞受賞
(Sundance film festival / U.S. Documentary Special Jury Award for Cinematography)

米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ショートリスト出演
(OSCARS 2020 SHORTLIST: DOCUMENTARY [FEATURE])

ちらし – 映画『ミッドナイト・ファミリー』

ドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』ちらし表面
ドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』ちらし表面
ドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』ちらし裏面
ドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』ちらし裏面

予告編 – 映画『ミッドナイト・ファミリー』

予告編:ドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』

関連外部リンク – 映画『ミッドナイト・ファミリー』

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